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金より高い青

ラピスラズリが決めた、何を聖なるものとするか

ABC編集部2026.07.15 5分
金より高い青

聖母マリアの衣は、なぜ青いのか。信仰に理由を探す前に、値札を見たほうが早いかもしれない。

聖母マリアの衣は、たいてい青い。その理由を神学に探すこともできるけれど、もっと即物的な入口がある。値札だ。

ウルトラマリンという顔料は、ラピスラズリという石を砕いてつくる。この石は長らく、アフガニスタン北東部——バダフシャーンの鉱山が、ほぼ唯一の産地だった。そこから海を越えてヨーロッパへ運ばれたので、ultra marinus、「海の向こうから」と呼ばれた。名前そのものが、輸送距離の記録になっている。

ルネサンス期、この青は重さあたりで金より高価だったと伝えられる。だから絵の注文書には、ウルトラマリンをどれだけ、どの等級で使うかが、金額とともに書き込まれた。画家の自由ではなく、契約事項だったのだ。そして最も高い色は、最も重要な人物に塗られる。マリアの衣が青いのは、青が高かったからでもある。何を聖なるものとするかに、市場が静かに補助線を引いていた。

一八二四年、フランスの団体が合成ウルトラマリンの製法に懸賞を出し、数年後にジャン=バティスト・ギメがそれを受け取ったとされる。石を砕く必要はなくなり、青は暴落した。誰でも買える色になった。ここで「技術が芸術を民主化した」と締めたくなるけれど、少し待ちたい。安くなったとき、青は特別さを失ったのだろうか。

一九六〇年、イヴ・クラインは自分で調合した鮮烈な青を登録し、その色だけで画面を埋めた。安くなった青を使って、もう一度「この青は特別だ」と言い張ったことになる。希少だから尊いのか、尊いと決めたから尊いのか。青は、その問いをずっと運んでいる。海の向こうから、いまも。

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